素行善良要件とは
永住権の審査基準は、以下の3つです。「素行が善良であること」、「独立して生計を営むに足りる資産または技能を有すること」、「永住が日本国の利益に合致すると認められること」です。
「素行善良要件」とは、「法律を遵守し、日常生活において住民として社会的に非難されることのない生活を営むことができること」です。このコラムでは、「素行善良要件」について詳しく解説します。
主な素行善良要件
公共の秩序を乱す行為がないこと
永住権を取得する際の「公共の秩序を乱す行為がないこと」とは、公共の安全や秩序を乱す行動をしていないということです。具体的には、公共物の破壊、傷害、飲酒運転、違法薬物の所持・使用などが含まれます。
過去に罪を犯していない場合や、法令違反によって罰金や処罰を受けた場合でも、その後の行動が改まっているかどうかが重要視されます。日本の法令に違反し、懲役、禁錮、罰金に処せられた場合でも、以下の条件を満たせば「素行善良要件」をクリアできる可能性があります。
・執行猶予の期間が終了して5年が経過した場合
・罰金刑の執行が終わって5年が経過した場合
・禁固刑や懲役刑の執行が終わって10年が経過した場合
また、家族全員で永住許可を申請する場合、子どもに対する保護処分が続いていると、素行善良要件を満たさないとみなされます。
重度な違反と軽微な交通違反
【重度な違反】
飲酒運転や無免許運転は意図的な悪質な違反とみなされ、永住許可申請が難しくなります。
【軽微な違反】
駐車違反のような軽微な違反でも、過去5年間で5回以上の違反をすると、不許可の可能性が高まります。また、軽微な違反でも反則金(行政罰)ではなく罰金(刑事罰、違反点数6点以上)が科されると、罰金刑として処分されるため、5年間の無事故無違反が求められます。罰金刑の場合は、罰金を納めた日から5年間、無事故無違反であることが必要です。
家族に資格外活動許可違反がないこと
家族滞在ビザを持つ配偶者や留学ビザを持つ留学生は、資格外活動許可を受けることで週28時間まで働くことができますが、これを超えると資格外活動違反となります。
家族が資格外活動違反をした場合は、申請者は監督不行届であるとして、違反者と同様の処分を受ける可能性があります。
この場合、問題なく週28時間以内で働く習慣を身につけてから、2~3年が経過してから申請するようにします。
納税義務違反がないこと
税金の未払いや滞納は、永住ビザ審査において不許可の原因となります。永住ビザの審査では、住民税(地方税)と所得税(国税)の両方が確認されます。
【住民税】
永住申請の際には、決められた期間に住民税がきちんと納付されているかが厳格に審査されます。以下の2つの証明書が使用されます(ただし、納税証明書に課税証明書の情報が記載されていれば、課税証明書は必要ありません)。
・課税証明書: 申請者の年収が一定基準を満たしているか確認します。
・納税証明書: 住民税の納付状況を確認します。
特に納税証明書に関しては、未納の有無だけでなく、期限内に納付されているかも重要な審査項目です。納期限を守っていない場合、不許可となるリスクが高くなります。
納税の審査の対象期間は在留資格の種類によって異なります。
・就労ビザ: 5年間
・配偶者ビザ(日本人、永住者、特別永住者): 1~3年
・年定住者ビザ: 5年間
・高度専門職(70点以上): 3年
・高度専門職(80点以上): 1年
また、申請者またはその配偶者が会社経営している場合、会社の納税状況も審査の対象となります。
【所得税】
以下の税目について未納がないことを「納税証明書(その3)」で証明します。
・源泉所得税および復興特別所得税
・申告所得税および復興特別所得税
・消費税および地方消費税
・相続税
・贈与税
年金や健康保険の社会保険料を適正に納付していること
永住許可申請において、不許可の原因として多く見られるのが社会保険関係です。日本では、年金と健康保険への加入が必須です。
以下のように、状況に応じた社会保険に加入する必要があります。
・会社員や会社経営者: 厚生年金と健康保険
・専業主婦: 配偶者の保険(第3号被保険者)
・自営業者: 国民年金と国民健康保険
永住許可申請では、直近2年間の適切な納付がチェックされます。ただ、実際には来日以降のすべての期間が確認されることが多いようです。
また、申請者だけでなく、配偶者の社会保険料も適切に納付されている必要があります。未納であったり、支払い遅延がある場合は、不許可となる可能性が高くなります。
【年金の納付】
永住権の取得において、永住申請者がこれまで国民年金に加入し、納期限内にきちんと納付しているかが厳格に審査されます。日本には「国民皆年金』」という考え方があり、原則20歳以上60歳未満の者はすべて国民年金に加入する義務があります。これは外国人にも適用されます。
会社で働いている外国人は、厚生年金として給料から天引きされるため、問題はありません。一方で、会社を辞めてから過去2年間、厚生年金に加入せず国民年金だけに加入している外国人は、期限内に納付を行ったことを証明しなければなりません。
【健康保険の納付】
2019年7月以降、社会保険料の納付状況が厳格に審査されるようになりました。直近2年分の納付実績が確認され、支払いが行われていても、納付期日に遅れて支払った場合は不許可の原因となる可能性があります。
会社で働いている外国人は、健康保険料が給料から天引きされるため問題ありませんが、自営業の方でコンビニ払いを利用している場合は、支払い遅延が発生する可能性があります。このような事態を避けるため、担当の行政書士は銀行引き落としやクレジットカード払いに変更することをお勧めします。
会社員が健康保険に加入している場合は健康保険証のコピーを提出し、自営業などで国民健康保険に加入している方は、納付を証明する資料を提出する必要があります。
また、永住権を取得した後に永住者が税金や社会保険料を納付しない場合、永住者の在留資格を取り消せるとする法改正が2024年6月に成立・公布されました。
健康状態が良好であること
永住権を取得するためには、申請者が心身ともに健康であり、重篤な疾病や感染症がないことが求められます。定期的な健康診断を受け、医師の指導に従って適切な治療や予防措置を講じること、さらに健康に悪影響を及ぼす生活習慣を避けることが重要です。
また、公共の健康に対するリスクを提供していないことも求められ、予防接種の受診や伝染病の拡散防止が必要です。なお、新型コロナウイルスに感染した病歴は問題視されません。
生活保護を受給していないこと
「生活保護を受給していないこと」とは、申請者が自身の生活費を稼ぎ、国や地域の援助を受けずに自立した生活を送っていることの証明です。「生活保護を受給していないこと」は素行善良要件のみならず、国益要件にも該当します。
地域社会への貢献
地域社会での活動や近隣住民とのトラブルの有無は、個人の素行を評価する重要な要素となります。
良好な評判を保ち、近隣住民や職場の同僚から信頼されることが必要です。また、地域のイベントに積極的に参加したり、ボランティア活動を通じて地域社会に貢献することも有益です。
虚偽申請がないこと
当然のことですが、虚偽申請は永住許可申請だけでなく、すべての申請において悪影響を及ぼします。この事態を避けるため、入国管理局へ「了解書」を提出します。
届出義務違反をしないこと
以下のような場合には、期間内に管轄官庁に届出を行う必要があります。
・引っ越した場合は、14日以内に市町村役場に届け出を行い、在留カードの住所を変更しなければなりません。
・退職や転職をした場合も、入国管理局に届け出る必要があります。
・離婚や再婚をした場合には、入国管理局に届け出ることが求められます。
まとめ
素行善良要件は、日本国内での生活において法律を遵守し、社会的な義務を果たしているかどうかが問われる基準です。具体的には、公共の秩序を乱す行為や重大な交通違反、納税や社会保険に関する義務違反がないことなどが求められます。
永住ビザの取得には多大な努力と誠実さが必要ですが、粘り強く要件を満たすことで、必ず成果を得ることができるでしょう。