2024年6月入管法改正:納税義務違反で永住権が取消されることに

目次

2024年6月14日に入管法の改正案が通常国会にて成立し、公布されました。この改正は2027年までに施行される予定です。
本コラムでは、特に納税義務違反による永住権の取り消しについて説明します。

現行の取り消し理由

以下は、永住権の取り消し事由です。

・再入国許可を受けずに出国(みなし再入国許可を除く)

・懲役や禁固刑を受け、退去強制となった

・虚偽の申請により永住許可を受けた

・在留カードの更新手続きを行っていない

・引っ越し後14日以内に転居届を提出していない

・虚偽の住居地を届け出た

2024年6月の入管法改正点

今回の入管法の改正点は以下の4項目です。

・新たな在留資格「育成就労」の創設

・特定技能の適正化

・不法就労助長罪の厳罰化

・永住許可制度の適正化

「永住許可制度の適正化」について

今回の改正では、永住許可制度を適正化するために取消事由が追加されました。
具体的には、「故意に税金や社会保険料を支払わない」場合や「特定の刑罰法令に違反する」場合に、在留資格が取り消される可能性があります。

特に「故意に税金や社会保険料を支払わない」場合は、審査要件の一つである「独立生計要件」に該当し、近年、審査が厳しくなっています。
改訂版永住許可に関するガイドラインの「法律上の要件」の(3)イの下に注釈が追記されました。

イ 罰金刑や懲役刑などを受けていないこと。公的義務(納税、公的年金及び公的医療保険の保険料の納付並びに出入国管理及び難民認定法に定める届出等の義務)を適正に履行していること。

※公的義務の履行について、申請時点において納税(納付)済みであったとしても、当初の納税(納付)期間内に履行されていない場合は、原則として消極的に評価されます。

この背景には、税金や社会保険料の支払いが本来の義務であるにもかかわらず、永住者には在留期間の更新がないために不払いが増加していることがあります。今回の改正は、このような不払いを防ぐための措置です。
一方で、永住者が税金や社会保険料を支払わない場合に、永住権が取り消されるのは、日本人に対する処置と比べて行き過ぎた罰則であるとの指摘もあります。
ただし、一般的には、在留資格を変更することで引き続き日本に在留できる可能性があるようです。

令和6年入管法の改正に伴う永住許可制度の適正化Q&A

Q1
永住許可要件の明確化とは、どのようなものですか?新たな要件が加えられ、許可の要件が厳格になるのでしょうか?

A明確化とは、現行の入管法に記載されている「その者の永住が日本国の利益に合する」という永住許可の要件について、現在「永住許可に関するガイドライン」に記載されている「公的義務を適正に履行していること」を、「この法律に規定する義務の遵守、公租公課の支払等」として法律に明記することを指します。したがって、今回の改正は新たな永住許可の要件を追加するものではなく、許可の要件を厳格化するものでもありません。

Q2
改正後の入管法第22条の4第1項第8号における「この法律に規定する義務を遵守せず」とは、具体的にどのような場合を想定していますか?うっかり在留カードを携帯しなかった場合や、在留カードの有効期間の更新申請をしなかった場合にも、在留資格が取り消されるのですか?

A「この法律に規定する義務を遵守せず」とは、入管法が定める永住者が遵守すべき義務を、正当な理由なく履行しないことが該当します。
永住許可制度の適正化は、適正な出入国在留管理の観点から、永住許可後にその要件を満たさなくなった一部の悪質な者を対象としています。これは大多数の永住者を対象とするものではありません。そのため、たとえばうっかり在留カードを携帯しなかった場合や、在留カードの有効期間の更新申請をしなかった場合に、在留資格が取り消されることは想定していません。

Q3
改正後の入管法第22条の4第1項第8号における「故意に公租公課の支払をしないこと」とは、具体的にどのような場合を想定していますか?病気や失業などでやむを得ず支払ができない場合にも、在留資格が取り消されるのですか?

A「公租公課」とは、租税のほか、社会保険料などの公的負担金を指します。
「故意に公租公課の支払をしないこと」とは、支払義務があることを認識しながら、あえて支払わないことを意味します。具体的には、支払うべき公租公課があり、支払能力もあるにもかかわらず、支払を行わない場合などが想定されます。
このような場合、在留状況は良好とは評価できず、「永住者」の在留資格を維持することは適当ではないと考えられます。
一方で、病気や失業など、本人に責任がないとされるやむを得ない事情で公租公課の支払ができない場合については、在留資格が取り消されることは想定していません。
取消事由に該当するとしても、実際に取消しを行うかどうかは、不払いに至った経緯や督促に対する永住者の対応状況など、個別具体的な事情に基づいて判断されます。

Q4
例えば、差押処分等により公租公課が充当されるなど、事後的に公租公課の不払状況が解消された場合、「故意に公租公課の支払をしないこと」には当たらないのでしょうか?

A永住許可制度の適正化は、在留状況が良好とは評価できない永住者に対し、法務大臣が適切な在留管理を行うことを目的としています。したがって、滞納処分による差押え等で公租公課の徴収が達成されたとしても、それによって必ずしも在留資格の取消しの対象にはならないとは限りません。
しかし、仮に取消事由に該当した場合でも、実際に取消しを行うかどうかは、適切な在留管理を行う観点から判断されます。この判断には、個別の事案における公租公課の未納額や未納期間、支払いに応じたかどうか、関係機関の措置への永住者の対応状況などが考慮されます。したがって、事後的に公租公課の不払状況が解消されたかどうかも重要な要素として考えられます。

Q5
改正後の入管法第22条の4第1項第9号に規定する刑罰法令違反とは、具体的にどのようなものが該当するのでしょうか?
過失による交通事故を起こし、道路交通法違反で処罰された場合や罰金刑に処せられた場合も対象になるのでしょうか?

Aここで規定する刑罰法令違反は、具体的には、刑法における窃盗、詐欺、恐喝、殺人などの罪や、自動車運転により人を死傷させる行為に関する法律、さらに危険運転致死傷などの一定の重大な刑罰法令違反に限られています。これらはすべて故意犯が対象です。したがって、過失運転致死傷の罪で処罰された場合は、本号の対象にはなりません。
また、道路交通法は、取消事由として規定された刑罰法令には含まれていません。そのため、道路交通法違反で処罰された場合も、そもそも対象とはならず、処罰の内容としても拘禁刑に処せられることが要件となっているため、罰金刑に処せられた場合も対象外です。
もっとも、永住者であっても、1年を超える実刑に処せられた場合は、罪名にかかわらず退去強制事由に該当し、退去強制される可能性があります。

Q6
新設された取消事由に該当した場合、必ず在留資格が取り消されるのですか?

A今回の改正では、取消事由に該当する場合でも、直ちに在留資格を取り消して出国させるのではなく、当該外国人が引き続き本邦に在留することが適当でないと認められる場合(※)を除き、法務大臣が職権で永住者以外の在留資格への変更を許可することとしています。
在留資格を変更する際、具体的にどのような在留資格にするかは、個々の外国人のその時の在留状況や活動状況を考慮し、引き続き本邦に在留するにあたって最適な在留資格が付与されますが、多くの場合、「定住者」の在留資格が付与されると考えられます。
(※)「当該外国人が引き続き本邦に在留することが適当でないと認められる場合」とは、例えば、今後も公租公課の支払をする意思が明らかにない場合や、犯罪傾向が進んでいる場合を想定しています。

Q7
在留資格が変更された後、再度永住許可を受けることはできますか?

A今回の改正は、永住許可の申請手続きに変更を加えるものではありません。そのため、「定住者」などの在留資格に変更された場合でも、公的義務が適切に履行されていることが確認できれば、再度永住許可を受けることが可能です。

Q8
「永住者」の在留資格が取り消された場合や「永住者」以外の在留資格へ変更された場合、その配偶者や子どもといった家族の在留資格はどうなるのでしょうか?

A在留資格の取消しまたは変更の対象となるのは、在留資格取消事由に該当する者だけです。したがって、対象者の家族であることが理由で在留資格の取消しや「永住者」以外の在留資格への変更の対象となるわけではありません。そのため、永住者の子の在留資格が「永住者」または「永住者の配偶者等」である場合、その在留資格には影響がありません。
また、配偶者の在留資格が「永住者」の場合も、その在留資格には影響がありませんが、「永住者の配偶者等」の場合は、「定住者」などの在留資格に変更する必要があります。

Q9
入管庁は、どのような手続きを経て取り消すかどうかを判断するのですか?また、処分の内容に不服がある場合はどうすればよいですか?

A法務大臣は、取消事由の有無などの事実関係を正確に把握するため、入国審査官や入国警備官に事実調査を行わせるとともに、入国審査官には対象となる外国人から意見を聴取させることになっています。
意見聴取では、対象外国人またはその代理人に対して意見を述べたり、証拠を提出したりする機会が与えられます。
法務大臣は、これらの手続きによって得られた事実を踏まえ、対象者が取消事由に該当するかどうかを慎重に判断し、該当する場合には「永住者」の在留資格を取り消すか、または「永住者」以外の在留資格に変更するかを決定します。
さらに、職権による在留資格の変更や「永住者」の在留資格の取消処分に不服がある場合は、取消訴訟を提起することが可能です。

Q10
どのような場合に入管庁へ通報されるのですか?例えば、市町村に住民税の支払いについて相談に行った場合にも通報されるのでしょうか?

A改正後の入管法第62条の2では、国または地方公共団体の職員がその職務を遂行する際に、在留資格取消事由に該当すると思われる外国人を知った場合、その旨を通報できるとされています。ただし、その通報は義務ではありません。
入管庁は、国や地方公共団体の職員が通報するかどうかを判断する際の参考となるよう、在留資格を取り消すことが想定される事例についてのガイドラインを作成し、公表する予定です。しかし、単に公租公課の支払いのために関係機関に相談に行った場合に通報されることは想定していません。
また、公租公課の支払いについてお困りの場合は、関係行政機関に相談いただくとともに、在留資格について不安がある場合は、FRESCの窓口にも相談することをお勧めします。

Q11
長く日本で生活しており、在留資格が取り消されても、本国に帰る場所がありません。
このような場合でも、取り消しの対象となるのでしょうか?

A国会により追加された改正法の附則第25条では、「新入管法第22条の4第1項(第8号に係る部分に限る。)の規定の適用に当たっては、永住者の在留資格をもって在留する外国人の適正な在留を確保する観点から、同号に該当すると思料される外国人の従前の公租公課の支払状況及び現在の生活状況、その他の当該外国人の置かれている状況に十分配慮するものとする」と規定されています。この趣旨を踏まえ、取り消しの対象となるかどうかは、対象者の日本への定着性や生活状況等に十分配慮して判断し、慎重に運用されます。

出入国在留管理庁のホームページの「永住許可に関するガイドライン(令和6年11月18日改訂)永住許可制度の適正化Q&A」より引用

まとめ

2024年6月に成立した入管法改正案では、主に以下の4つのポイントが改正されました。新たな在留資格「育成就労」の創設、特定技能の適正化、不法就労助長罪の厳罰化、そして永住許可制度の適正化です。

永住許可に関しては、故意に税金や社会保険料を支払わない場合や特定の刑罰法令に違反する場合には、在留資格が取り消される可能性が追加されました。特に税金や社会保険料の支払いは義務であり、永住者には在留期間の更新がないため、不払いが問題視されています。

納税や社会保険料の支払いは義務であり、その履行を怠ることは法律違反に該当します。延滞や未納があると、後に支払ったとしても審査時に不利な評価を受けることになります。永住権を失うリスクを避けるためにも、日常的に納税と社会保険料の支払いを確実に行いましょう。