日本における永住許可を申請する際、申請者が慢性疾患、障害、要介護状態、精神疾患などの健康上の問題を抱えている場合、「果たして申請が許可されるのか?」という不安を抱くのは自然なことです。
このコラムでは、そうした健康上の事情がある方の永住申請について、実現可能性や注意点を解説します。
永住許可申請の基本要件と健康状態の関係
永住許可の判断基準は、法務省が定める「永住許可に関するガイドライン」に基づいており、以下の三点となります。
・素行が善良であること(素行善良要件)
・独立した生計を営むに足りる資産または技能を有すること(独立生計要件)
・永住が日本の利益に合致すること(国益適合要件)
この中で、健康状態が特に関係するのは「独立生計要件」と「国益適合要件」です。健康上の問題自体は直接的な不許可の理由にはなりませんが、病気や障害により収入が不安定であったり、生活保護を受給している場合には、申請が却下される可能性があります。
病気・障害と生計
仮に、申請者が障害や持病によって働けない場合でも、遺族年金や企業年金などの公的・私的年金によって生活が支えられている場合は、安定した生活基盤として評価される可能性があります。また、難病や精神疾患の治療において、特定疾患医療費助成制度や障害者医療費助成制度などの公的制度を利用している場合でも、それが直ちに不利益となることはありません。
むしろ、これらの制度を活用しながら安定した生活を送っていることは、一定の社会的自立と見なされることもあります。
実際の審査では、生活保護を受けているかどうか、扶養体制があるかどうか、そして収入源の継続性などが総合的に考慮されます。
申請時の留意点と工夫
申請を行う際には、病状の安定性や生活の見通しを示すための工夫が必要です。
以下の点に注意しながら、必要書類を整えることが重要です。
・診断書に病状が安定していることを明記してもらい、通院記録とともに提出する。
・扶養者がいる場合、その収入証明と扶養関係を明確にするため、住民票を提出する。
・障害年金や遺族年金などの公的年金を受給している場合、その通知書や口座への振込明細を提出する。
・自立支援医療制度や障害福祉サービスの利用実績を証明する書類を提出する。
・過去に生活保護を受けていた場合、その理由と現在の改善された生活状況を理由書に明記する。
・地域包括支援センター、訪問看護、介護保険制度などの支援体制を記載する。
・障害者手帳や要介護認定がある場合、その等級や支援の状況を説明する。
・生活の将来的な安定性(貯蓄・不動産などの資産・家族支援)を裏付ける書類を用意する。
・必要に応じて、支援者(医師・ケアマネジャー・支援団体)による意見書を添付する。
また、所得が低い場合でも、保険料や年金の納付履歴がきちんとしているかどうかは重要なポイントです。免除申請を行っていた場合には、その記録を提出し、正当な手続きを経ていたことを説明します。
家族・扶養者の在留資格との関係
永住申請者が自ら十分な収入を得ていない場合でも、扶養者や親族からサポートを受けて安定した生活を送っている場合は、許可される可能性があります。
特に扶養者が日本人、永住者、または定住者であり、かつ安定した職業に就いている場合、その扶養体制の信頼性は高く評価されます。扶養者が外国人である場合は、その在留資格や就労状況も併せて確認されることがあります。
退職後や高齢者の永住申請における留意点
すでに高齢で定年退職している、または健康上の理由で退職した方も、永住申請は可能です。その際、退職後の年金受給状況、預貯金、持ち家などの居住状況、家族の支援などを総合的に整えて提出することが重要です。要介護認定を受けている方についても、生活や医療のサポート体制が整っていれば、申請において不利とは限りません。
要するに、自立した生活ができ、日本国や社会の負担にならないことを審査官に納得させることが重要です。
過去に生活保護を受けていた場合
生活保護の受給歴がある場合でも、それが一時的な事情によるものであったり、現在は自立した生活を送ることができていることを証明できれば、永住許可申請ができないとは限りません。この場合、生活保護を受給していたことをやめた理由や生活改善の経緯を説明する書類(行政機関からの通知や自作の経緯説明書など)を添付することが求められることがあります。
まとめ
病気や障害があるからといって、永住申請を諦める必要はありません。重要なのは、現在の生活基盤がどれだけ安定しており、将来にわたっても継続可能であるかを証明することです。
障害年金や扶養関係、医療体制などを適切に整理し、必要な書類をそろえた上で申請すれば、十分に実現可能です。
不安な場合は、永住申請を専門とする行政書士に相談することで、より確実な申請準備が可能になります。